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「両性体が性を選ぶとき? それ、おもしろいのか?」
「別におもしろいから読んでるわけじゃないよ。そもそもこんなとこにある本におもしろいものなんてある?」
「まあ、禁書だしな。んで? なんでヴェインはそれ読んでるんだ? いや、待て。おまえ、両性体だよな?」
首を傾げて言うサハンにナターシャは白けた目を向けて、自身の体を指さした。
着ているものは竜族の民族衣装で、制服ではない。
「ぼくが着ているものは制服じゃないよ」
「ヴェインは両性体で、その本を読んでいる。おまえ、選びたい性でもあるのか?」
「選びたい性がなきゃこんなの読むわけないだろ。きみは人の読書の邪魔がしたいの?」
「いや、そういうわけじゃないんだが。両性体の性の選び方は決まってんだろ? だったらそれ読む必要ないんじゃないか?」
「…だから、だよ。選び方を間違った。ぼくにはどうしてもなりたい性がある」
ナターシャはサハンから顔をそらすと、開いていたページの写メを撮った。
「おいおい。禁書の本は写メ禁止だろ。もちろん持ち出しもな」
サハンが写メを撮ったことに言及すると、ナターシャは端末をカバンにしまってサハンの唇に人差し指を当てた。
「秘密だよ」
そう言ってほほ笑むナターシャに一瞬サハンは呆けたような表情を浮かべた。
「っ秘密ってあのなーー」
「誰かに言ったらきみを共犯者にするから。見てるだけで止めることはしなかった、ってな」
「お前な…。分かった。最近話題のあれ、奢ってくれんなら誰にも言わない」
手にあごを載せて言うサハンをチラッと一瞥して、本を元の場所に戻したナターシャは入り口に向かって歩いていく。
「おい!」
慌てたように声を掛けるサハンにナターシャは足を止めて振り向く。
「奢ってほしいんじゃないの」
それだけ言って部屋を出ていくナターシャにサハンは笑って後を追った。
シュティーヘル図書館から歩いて10分のところにあるカフェに二人は来ていた。
サハンの前にはふんわりとした厚みのあるパンケーキが置かれている。
パンケーキの上には、大量にシロップがかかっておりホイップクリームとブルーベリーが添えられている。
見た目からしてかなり甘そうなそれを、一口大の大きさに切って食べる。
「うま!」
「……ただ甘いだけの食べ物にしか見えないんだけど」
そう言うナターシャは、ブラックコーヒーを飲んでいた。
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