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ラディの好物ばかり用意したナターシャは学校の中庭の片隅に座ってラディが来るのを待っていた。
シートの上には猪をじっくりタレにつけて煮込んだもの、鶏の香草焼き、鶏のから揚げ、鹿のステーキ。ほとんどが肉料理ばかりで心ばかりのサラダがその中にちょこんと置かれていた。
獣人族はほとんどが肉食だ。彼らの好物はほとんどが肉で、そうでない方が珍しいぐらいだ。
「……ナターシャ」
「遅かったね。絡まれたりでもした?」
「アレンが、一緒にご飯って言うから……」
「そりゃ大変だ」
ナターシャは笑いながら鶏の串焼きをラディに差し出した。それを食べながらシートの上に腰を下ろしたラディは好物ばかり並ぶ料理に目を輝かせた。
バスケットの中に入っていたメフルも芳ばしい香りがしていて、もっちりした食感に、口の中にはラズベリーの味が広がる。
「おいしい」
「それはラズベリー味のだな。その隣のはクルミが入ってる。これも食べろよ。猪のラグー好きだろ?」
ラディは器に盛りつけられている猪のラグーをかき込むように食べていく。みるみる減っていくラグーにナターシャは「さすが獣人族」と呟いた。
「お腹すいてた、から。とってもおいしい。……これ、用意するの大変だった……?」
「ぼくはこれが食べたいって頼んだだけだから」
シートの上に広がっている料理は、ナターシャが寮のキッチンに用意してくれるよう依頼したからだ。
各学校にはそれぞれカフェテリア等食事ができるところがあるが、寮生の希望があれば、こうして用意してくれることもある。ただ依頼するにしても事前申請が必要だ。朝から料理人たちがこれだけの料理を用意するのは大変で、ナターシャも少しばかり手伝ったりはした。
「……ナターシャは……なに?」
「ん? なにって?」
「どうして、こんなの準備してくれたの? ナターシャ、珍しい。ぼくに、してほしいこと、ある……?」
ナターシャは笑った。
どう話を切り出そうかと思っていたところにラディから直球の質問だ。考える手間が省けた。
「そうだね。手伝ってほしいことがある。マット・スクーズいや、ラディに手伝ってほしい」
決してファーストネームを呼ばなかったナターシャは、初めて「ラディ」と呼んだ。それにラディは目を数回瞬き、笑みを浮かべた。
「ナターシャ、ずるい。なまえ、呼ばれると、手伝いたくなる」
「なら手伝え。ぼくにはラディの助けがいる」
「エンヴィ先輩……は?」
「あいつには頼めない。ラディ、ぼくは男になりたいんだよ。女になれっていう奴には頼めない」
「ぼくが、女がいいって言ったら?」
「でも、おまえは言わないだろ?」
ナターシャはにっこり笑って言った。
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