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 ――レオナ・エステヴァン。  ジルヴィア国立中学校で歴史学を教えている女性だ。  赤茶色の髪に、翡翠色の瞳に鼻の周りにうっすらとそばかすがあり、少し癖のある髪を首の中ほどで切り揃えている。  若くして教授の地位を獲得した才女と名高く、歴史学にもかなり精通しており、その道の権威と言われるような人たちも彼女に一目置いている。  つい最近も発表された彼女が書いた論文が歴史を(くつがえ)したとかなり話題になっていた。  その彼女が颯爽(さっそう)と廊下を歩いている。  ひざ下10cmの長さの黒のスカートに、スリッドから覗く太ももに男子生徒は顔を赤らめている。  次の授業を行う教室に着いた彼女は、チャイムが鳴ると一つ深呼吸をして中に入った。 「はーい、全員席に着きなさ―い! 今日は、ドリアドの粛清について話すわよ!」  教室に入ったレオナは、ホワイトボードにでかでかと「ドリアドの粛清」と書いた。 「ドリアドの粛清は知らない人がいないほど有名なものよね。この世界にある五大陸のうちの中央大陸、このジルヴィア中央国立学園都市がある場所よりさらに南下した位置にいたドリュアスという一族と、現在はこの大陸の半分の国土を有しているイルデア帝国間で起こった争いです。ドリアドというのは、ドリュアスが訛った言い方ね。ドリュアスに対してイルデアが行ったことを、そうね。ナーラさん、答えてくれる?」  レオナに指名されたのは、ラディの右斜め前に座っている見事な赤毛を持つ獣人族(ティア)の女生徒だ。 「ドリュアスの女性だけが持つとされる緋色の宝石が欲しい為、ドリュアスの一族が住む郷に攻め入り、年寄りや男、子どもは即座に殺され、女性は生きたままむごい仕打ちをしました。女性たちだけ両目がくり抜かれた状態だった、と」 「はい、結構よ。そのとおり。イルデアは緋色の宝石がほしかった。この緋色の宝石は、要は女性の目のことよ。一般にこの黒目の部分に不思議な力が宿っていたの。ドリュアスの女性は成人を迎えると、元々黒かった黒目が赤色に変わる。そして死亡するとその赤目が濁ってしまうから、生きた状態で抜き取るのが一番状態がよかったの。だから、攻め入った時女性だけは生け捕りにして、生きた状態で目をくり抜き、その後殺した。ただ、何もなしに攻め入っては他国から批判が出るのは分かりきっていたから、ドリュアスの族長の娘を側室として召し上げた。そしてイルデアの国教に改宗を求めたけど、彼女は改宗しなかった。だから、彼女と彼女の一族を異教徒として粛清した。族長の娘は、王との間に一人息子を設けていたそうだけど、その子どもは幽閉され、飼い殺しにされたというのが歴史に記されていることね。みんなここまでちゃんとメモは取った?」  ホワイトボードに関係図など書き込みながらレオナは教室全体を見回した。  全員がノートかホワイトボートを見ているのを確認して、教卓に両手をついた。 「でもね。ドリュアスの族長の娘が産んだ子ども、彼の名前はスルトというのだけど、その名前と当時のイルデアの暗部「スコトーマ」の副隊長に同名の人がいたの。調査が進むにつれ、その二人が同一人物だということが最近分かったのよ。彼は生かされる代わりにスコトーマに所属して、首には隷属の首輪を装着されていて、30代半ばの頃、隷属の首輪の呪縛で亡くなったのよ! ちなみにドリュアスは皆殺しになったと言われているけど、当時の生き残りがいて、血は繋がっているようよ。純血はほぼいないそうだけどねー」  ラディは、レオナの話を他人事のように聞いていた。実際他人事だから仕方ないのだが、ラディの右斜め前に座っている女生徒は少し俯いていた。
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