第1話 出発

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  マルスは野菜の葉等を触り、 「もうすぐ収穫出来そうだな……本当、ここまでするのに苦労したな……」 野菜の成長具合に顔が綻(ほこ)ろんだ。 ここに来たばかりは、自分の食料確保の為にと人気(ひとけ)のない場所を探しに毎日出掛けた。 大きな木々が日差しの妨げになるのに唯一、日が差し込み、里の者が来ないこの場所を見付けた。 隊の訓練、村長宅の家事などの合間を見付けては土を耕し続け、丁度いい感じになった処でポケットから種を出した。 それはディダから貰った種だ。 昔、勉強をする際に使った種ではあるが、それでも充分育つと聞かされていた。 前に畑仕事中のディダを見ていた事を思い出しながら、種まきや水やりを見よう見まねにやり続けた。 何十粒もあった種だが、水のやり過ぎなので途中育った野菜が根腐れを起こしたり、例え育ってもキツネや熊、鳥などに畑を荒らされてしまった事もしょっちゅうだった。 そんな風に毎日野菜の成長やどのくらい水や肥料、動物の被害に自然災害の事もこと詳しく本に綴った。 2~3年頃からだ。 いつもの様に野菜の状態を見ていると、アレスが現れ、何故か果樹の種や害虫処理などを手伝い出した。 最初は嫌がって追い出そうとするも、 「居候の身のくせに文句を言うな」 等と言われ、黙るしかなく、もちろんこの後はメリーヌに散々言われてしまった。 この時から、気が付けば皆が畑仕事の手伝いをするようになっていた。 今思えば、書いていた本を覗かれたに違いなかったが、一昨年から旬の野菜が採れるようになり、少しずつ里が潤う様になった。  
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