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ちりちり、と火花が弾ける音が公園に響く。ほぼ全ての花火を使いきった俺達は、線香花火を静かに楽しんでいた。橙色の雫のような火種が、なんとも風情ある輝きを放っている。
「…私、こうしてたかったよ。ずっと」
「何、花火か?そんくらい言ってくれれば…」
「それもそうだけど…それだけじゃないよ。…こうして二人で、一緒にいる時間が欲しかった」
「……ごめん」
「それなのに楓紀ったら、急にバイト始めるとか言い出すんだもん。びっくりしたし、正直呆れちゃった」
「返す言葉もないです…」
…なんだか、今日の美華は積極的だ。普段はこんな風に自分の心情を吐露することが無いので、とても新鮮に感じる。
そして、わかったことがもう一つ。寂しい思いをしてたのは俺だけじゃなかった。それに気づけなかった俺は…本当に大馬鹿野郎だ。
「…もういいよ。こうして花火も出来たから、これで許してあげる」
微笑を湛える美華。その暗がりに映えるどこか儚げな表情に一瞬胸が飛びはね、俺の線香花火の火種が落ちた。
「…ふふっ、下手くそ」
「うっせ」
美華はまた器用に、線香花火の火種を残したまま花火を終えたのだった。
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