2人が本棚に入れています
本棚に追加
「…でもあれだよね」
「ん」
「最近、こうやって花火してる人ってあまり見かけなくなったよね」
「あー、それは確かに…」
「ちょっと勿体ないよね。こんなにお手軽に楽しめて、綺麗なのに」
美華の言葉は正直新鮮だった。俺はこの娘と長いこと一緒にいたが、根っからのインドア派だと思っていたからである。
「ならあれだな、友達と花火やる楽しみも増えたな」
「…本当にばかなんだから」
「?」
ぼそっと美華が呟いた呟きは、あまりにも小さすぎてよく聞き取れなかった。
「楓紀」
「おう」
そして、美華は参考書が詰まった鞄を、俺は燃え尽きた花火を入れた、水を張った小さめのバケツ(砂場に置き去りにされてたものを拝借した)を手に持ち、互いに向き合う。
「この先、また夏が来たら…また一緒に、花火。やってくれる…?」
「…っ!」
そう言った美華の姿は少ししおらしく思え、俺の心臓が早鐘を打つ。そして少し間を置き、俺は応える。
「…そんなの、当たり前だろ」
「…ん。わかった。…ありがとう」
そして二人は並んで家路を急いだ。道中ではこの夏休みであった出来事を言い合うだけで手を繋いだりとか、浮いた話とかは一切無かったが、それくらいの距離感が、俺達には心地よい。
俺達の上には相変わらず、二人をすっぽりと覆い隠すような満天の星空が広がっていた。
最初のコメントを投稿しよう!