2人が本棚に入れています
本棚に追加
そして時は流れ一年後。美華は結局東京の大学に行くことを断念したものの、地元ではトップの国公立大学に合格し、エリート街道を爆進中。俺はランクこそ低いもののなんとか私立大学に合格した。これも一重に、秋頃から美華が勉強の面倒を見てくれたおかげだろう。
季節は再び夏となり、俺は河川敷に立っていた。湿度も高くヤブ蚊が舞って鬱陶しいことこの上ないが、それでも俺は立ち続けていた。久しぶりに、あいつに会うために。
「…お待たせ。楓紀」
そして聞き覚えのある声がしたので振り返ると、そこには朝顔の刺繍が入った藍色の浴衣を着た、艶やかな雰囲気すら感じる俺の幼馴染みがいた。
「美華…。あれまぁ、暫く見ない間に綺麗になっちゃって」
「…ふふ。調子が良いんだから」
「お世辞なんかじゃ無いって。…なんか、Tシャツにジーンズな俺が不釣り合いに思えてくるぜ」
「そんなこと無いよ。似合ってる似合ってる」
今の美華に言われても、お世辞にしか聞こえない。
「お、俺の格好はいいから!早く行こうぜっ」
「えっ!?格好のことを言い出したのはそっち…って、ちょ、ちょっと待ってぇ…!」
そして俺は美華の手をとり、河川敷に群がる雑踏の中に飛び込んでいった。それと同時に、俺達の頭上では爆裂音と共に、鮮やかな大輪の炎の花が咲く。それを見上げる彼女の表情は、俺にはそんな花火よりも輝いて見えた。
最初のコメントを投稿しよう!