2人が本棚に入れています
本棚に追加
「注文入りました!塩一つ、味噌一つ!半チャも追加で!」
「あいよッ!」
あれから数日後、俺は宣言通りバイトを探しはじめた。なけなしの小遣いを叩いて購入したバイト情報誌には想像以上に求人があり、近所の募集を探すのにも目移りしそうだった。結局悩んだ末に選んだのは近所のラーメン屋。調理はさすがに無理そうだったのでホールスタッフを希望して面接に乗り込んだら、すんなり採用となった。タオルをバンダナのように巻いた、少し強面な店長曰く、元気が良いのが気に入ったそうだ。まぁ、そこは自分の長所というか唯一の取り柄だというのは自負している所である。
「…おい、おいバイト!ボサッとしてんな!さっさとお出ししろ!」
「…あ、す、すいません!今すぐ!…お、お待たせしました!」
「…おい、これ俺頼んだのじゃないんだけど」
「へっ!?し、失礼しましたぁーっ!」
…男、戸羽楓紀。17歳。人生初のバイトで死ぬほど忙しいですが、それなりに夏を謳歌しています。宿題?やってないよ。バイト終わる頃にはヘトヘトでそれどころじやないし。…それに、やっぱり一人でやってもわかんねーし。
「…おいバイト、休憩な。十分で戻ってこいよ」
「あっ、はい!休憩お願いしまーす!」
休憩スペースは、厨房の奥の四畳半ほどの小部屋にある。机と椅子しかないが、休憩はとるに越したことはない。俺はその錆びたパイプ椅子に腰を下ろし、スマホを立ち上げ(勤務中はスマホ厳禁!)、着信を確認する。…本日も着信なし。
「……」
そう、あの日から。俺が美華に罵られたあの日から、彼女からの連絡は途絶えた。勿論俺はバイトで、あいつはあいつで忙しいだろうからメールをする暇もないのかもしれないが、やっぱり無いと寂しい。特に話したい話題がある訳でもないが、やっぱり何も連絡がないのは辛い。…こんな感情を抱いたのは恐らく人生で初めてであった。
「あっ、やべ。もうこんな時間か。行かなきゃ」
俺は少しだけ早く休憩を切り上げ、熱気の篭る
厨房へと歩き出す。壁にかかっている、少し油で汚れたカレンダーの日付は、いつの間にか8月の下旬に差し掛かろうとしていた…。
最初のコメントを投稿しよう!