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「……」
「……」
沈黙がベンチに座る二人の間を支配する。吹き抜ける夏の夜風の涼しさまでもが、どこか後味の悪いものにまで感じるような嫌な沈黙。何を言ったものかと、俺は口を開きあぐねていた。
「…なぁ、お前はアレか?塾の帰り?」
「…うん。楓紀はバイトの帰り?」
「おう。いやぁ、今日もオーダー間違えて店長に怒られちまってさ」
「そうなんだ」
「そうなんだよ…」
当たり障りの無さすぎる会話。何だそりゃ、と心の中で思わず叫ぶ俺。ついこの間まで何不自由なく話せてたのに、どうして急に話に困らなくちゃいけないのだ。
…だが、ここで黙ってしまってはムードメーカーの名が廃る。久しぶりに会えたこいつのためにも、自分の心情を吐露してでも会話をしなくては!
「…なんつーか、ごめんな。連絡できなくて」
「別にいい。楓紀もバイトで忙しかったんでしょ」
「それもそうだけど…俺もお前が塾で忙しいんだろうなと思ってたから、メールしなかったんだけどよ。…一応俺も、美華からメール来るの待ってたんだぜ」
「……」
「俺バカだからさ、どう言えば良いのかよくわかんねぇけど…。やっぱ寂しいな、誰かと繋がっていないってのは」
「……っ」
美華はおもむろにベンチから立ち上がり、俺に背を向けた。見慣れた背中のはずなのに、今日はなんだか一回り小さく見えた。
「美華?」
「…コンビニ。一緒に行こ」
「えっ?おい、置いてくなよ!」
そして少し早足に、美華は公園から出た。
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