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「……ただいま。」
玄関のドアを開けた私の目の前に広がる暗闇から『お帰り』の言葉が返ってくる事はない。
一人暮らしだから返事がないのは当たり前の事だけど、昔からの癖でつい口にしてしまう。
十年前の私の目の前には『明るい部屋』『温かい食事』『家族の笑顔』全てが揃っていたのに……。
どうして私は一人ぼっちになってしまったの？
パパ――…。
ママ――…。
どうして私を置いて逝ってしまったの？
年齢的には大人なのに私の心は成長していないのか、孤独に押し潰されて壊れそうになる。
毎晩涙を流しても、大好きだったパパとママが私の元に戻る事はない。
何よりも大切で大好きだったあの人も……。
「はあ、家に帰って来ると気分的に暗くなる。こんな私なんて駄目!!」
深い暗闇に沈みそうになった心を奮い立たせるように頭を振り、全ての部屋の明かりを点けて浴室に向かった。
甘ったるい香水の匂いを洗い流すために、痛くなるぐらい身体を擦る。
パパとママが綺麗だと褒めてくれていた薄茶色の髪を丁寧に洗う。
シャワーを浴びて着替えを済ませると、夜の世界の『ミオ』からパパとママの娘『綾瀬美桜』に戻る。
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