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「私の婚約者を紹介します。綾瀬美桜さんです。」
「……え?」
今、私の名前を言わなかった?
ど、どういう事?
私が蓮の婚約者だなんて一体どうなってるの?
「はあ。蓮の奴、何を考えてるんだ?」
「ち、ちょっと!!急な展開で意味が分からないわ!!」
せいちゃんと結衣は動揺して焦ってるみたいだけど、名前を呼ばれた私が一番動揺してる。
蓮は何がしたいの?
私をからかって楽しんでるの?
『R』の事だけで手一杯なのに蓮の事まで対応出来ない。
「美桜、おいで。」
「……」
「ふっ、恥ずかしいのか?皆さんに挨拶するだけだからおいで。」
「っ、」
マイクを通して響く蓮の声は低く甘いけど、有無を言わせない迫力がある。
本当に婚約するなら納得出来るけど、今の私と蓮の間には十年前に別れたという事実しかない。
それなのに婚約者として私を紹介するなんて、遊ばれているとしか思えない。
クラブのナンバー1ホステスが財閥御曹司と婚約なんて有り得ない。
そんな事をしたら佐久間財閥の名前にキズがつく。
だから絶対に挨拶なんて出来ない。
「わ、私――…、」
「美桜、何も言うな。俺の隣に来い。」
「っ、」
蓮の低い声と命令口調に何も言い返す事が出来ず、ゆっくり椅子から立ち上がると、会場内に居る人達の視線が一斉に私へと向けられた。
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