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やっぱり暴れてでも帰るべきだったかもしれない。
このまま蓮に寄り添っていたら流されてしまう気がする。
「美桜、隣の部屋に朝食を運ばせたから食べないか?」
「……はい、いただきます。」
「ふっ、どうして敬語で話すんだ?」
「い、いえ。何だかこの状況が信じられなくて……、」
十年間も離れていたのに、蓮との蟠りがない事に戸惑ってしまう。
王様のように振る舞う蓮が私にだけ優しい所。
私を子供扱いして甘やかす所。
何一つ十年前と変わってない。
まるで十年間という空白の時間なんて無かったかのように、私達の間には穏やかで温かな空気が流れている。
「美桜、朝食の前にシャワーを浴びるか?」
「いいえ、大丈夫。ありがとう。」
「それじゃあ、朝食にしよう。」
「ええ。」
パジャマの上からガウンを羽織り、寝室を出て行く蓮の後を追い掛けた。
「わあ、凄く美味しそう。」
「美桜の好きな物をリクエストしておいた。」
「蓮、ありがとう。」
「ああ。」
焼きたてのフランスパンとクロワッサン。
フワフワのオムレツと厚切りベーコン。
真っ赤なトマトが乗ったシーザーサラダ。
紅茶とオレンジジュース。
どれも私の大好きな食べ物ばかり。
朝食のメニューは蓮がリクエストしたって言ってたけど、私の事をずっと忘れないでいてくれたって事なのかな?
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