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「蓮様、そろそろお時間です。」
「ああ、分かった。美桜、行くぞ。」
「は、はい。」
蓮は佐伯さんの言葉を聞いて目を開けると、一瞬だけ私に視線を移して歩き出した。
良かった。
佐伯さんのおかげで助かった。
佐伯さんが良いタイミングで蓮に声を掛けてくれたから、緊張で固まっていた身体から一気に力が抜けた。
「美桜、安心するなよ?取り調べは後で行う。じっくりとな。」
「え?」
と、取り調べってどういう事?
もしかして考え事をしていたのを隠したから怒ってるの?
「ふっ、俺に隠し事が出来ると思うな。」
「……」
何も言い返せない。
私、蓮に何をされるの?
蓮は歩みを止めて唖然と立ち尽くす私に柔らかな微笑みを向けると、優雅な振る舞いで車に乗り込んだ。
「美桜様、お乗り下さい。」
「は、はい!!ごめんなさい!!」
佐伯さんの穏やかな声を聞いて我に返り、慌てて車に乗り込んだ。
「蓮様。秘書課から連絡がありまして、聖也様と結衣様が副社長室でお待ちのようです。」
「ふっ、早いな。美桜が心配で堪らないようだな。」
「はは、そのようです。」
私を心配して朝早くから待ってくれている二人の気持ちが嬉しい。
早くせいちゃんと結衣に会いたいな。
会社に着くまで後少しの我慢。
走り出した車の中で繰り広げられる二人の会話を聞きながら、窓の外の流れる景色を眺めていた。
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