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「美桜、突っ立ってないで早く来い。」
「あ、あの!!」
「ん?どうした?」
「……」
優しく微笑む蓮を見たら何も言えなくなってしまう。
私に対する蓮の甘い態度に戸惑いを隠せない。
私は偽の婚約者なんだよ?
愛おしい人を見つめるような瞳で私を見るのは止めて欲しい。
「美桜、言いたい事があるならはっきり口にしろ。」
「えっと……、」
「美桜の願いなら何でも叶えてやるって言っただろ?」
そんなの嘘。
婚約は嫌だと言っても聞いてくれなかったし、家に帰りたいって言っても帰してくれなかったのに。
私の願いは只一つ。
蓮の側を離れて元の生活に戻る事。
そのためには早く『R』の正体を突き止めて、お金を返さないといけない。
このまま此処に居たら蓮と離れられなくなる。
今でも蓮の事は愛してるけど、この想いは胸に秘めて生きて行くって決めたの。
だから一秒でも早く此処から離れたい。
「蓮。私、別の部屋で寝たいの。」
「……」
「偽の婚約者である私が蓮と一緒のベッドで寝るなんて、絶対に間違ってると思うの。だから別の部屋を用意して欲しい。」
「……」
私を見つめる蓮の表情から何を考えているのか読み取る事は出来ないけど、怒りに満ち溢れているような気がする。
凄く怖い。
金縛りにあったみたいに身体が硬直して動かない。
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