80人が本棚に入れています
本棚に追加
「着きました。」
運転手の声を合図に車から降りると、佐久間グループ本社の高層ビルが目に映った。
「……はあ。」
今からこの高層ビルの中に足を踏み入れる事を考えると緊張で身体が震える。
今日は蓮の婚約者として此処に来たのだから、堂々としていないと変に思われる。
お嬢様と呼ばれていた頃の私なら、どんな状況でも緊張せずに上手く振る舞えていたと思う。
でも夜の世界で生きている今の私には、お嬢様のような振る舞いなんて出来ない。
絶対に無理。
「美桜、どうした?」
「う、ううん。何でもない。」
蓮に話して心配をかけたくない。
落ち着いて行動すれば大丈夫。
蓮の婚約者として毅然とした態度でいれば問題ない。
何を言われても聞き流せばいい。
「美桜、嘘をつくな。顔色が悪い。」
「本当に何でもないの。大丈夫。」
私の顔を覗き込んで頬を撫でる蓮に微笑みかけた。
「そうか、分かった。美桜、これだけは言っておく。誰が何を言おうと俺の婚約者は美桜しかいない。それだけは忘れるな。」
「はい。」
蓮は真剣な表情で頷いた私を確認すると、周りに見せ付けるかのように私の肩を抱いて歩き出した。
最初のコメントを投稿しよう!