勇気

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「美桜、どうした?」 「え?な、何が?」 蓮に見つめられるとアタフタしてしまう。 仕事中なのにドキドキして冷静でいられなくなる。 「ほら、皺が寄ってる。」 「あ……、」 蓮の綺麗な指先が私の眉間に優しく触れた。 ゆっくりと上下する指先の動きに身体が硬直する。 どうしよう、心臓が壊れそう。 「副社長、次の会議が始まります。」 「ああ、分かった。美桜、行ってくる。いい子にしてろよ?」 「は、はい。分かりました。」 佐伯さんに促されて部屋を出て行く蓮の姿を見送った後、強張っていた身体の力を抜いた。 「はあ、緊張した。」 蓮の第二秘書として勤める事を決めた時、仕事場では蓮の態度も厳しくなるだろうと思っていたけど、プライベートと変わらないぐらい優しくて甘い。 私が蓮の態度に困っていたら佐伯さんが助けてくれるけど、蓮は懲りずに時間があれば触れようとしてくる。 仕事中に誘惑してくる人は嫌だと言っていたのに、私は蓮に誘惑されている気がする。 頭の中では仕事中に触れ合うなんて駄目だと分かっているのに、蓮に求められている事が嬉しくて拒否出来ない。 ずっと偽の婚約者だからと自分の想いに蓋をしてきたけど、蓮から溢れる程の優しさや愛情を与えられる事で、少しずつだけど頑なだった私の心が変わり始めている。
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