103人が本棚に入れています
本棚に追加
「荒木専務。」
「は、はい。何でしょうか?」
一言も口を挟まずに傍観していた荒木専務の名前を呼んだ蓮の声は低く冷たい。
いきなり蓮から話し掛けられた荒木専務は、額から流れる汗をハンカチで拭いながら震える声で返事をした。
「俺達は帰る。また日を改めて会食の時間を作るという事でいいな?」
「は、はい。それで構いませんが、食事をしてから帰られてはいかがですか?」
「遠慮する。俺には馬鹿な女と食事をする趣味はない。此処の支払いは済ませておくから二人で好きなだけ飲み食いするといい。」
「わ、分かりました。ありがとうございます。」
蓮に『馬鹿な女』と言われた園田さんは、鋭く冷たい視線で私達を睨みつけている。
荒木専務はそんな園田さんの姿を見た瞬間、顔を真っ青にしてビクビクしながら蓮に頭を下げた。
「佐伯、帰るぞ。」
「はい、畏まりました。」
「美桜、行こう。」
「はい。荒木専務、園田さん。今日はありがとうございました。お先に失礼します。」
蓮から差し出された手を握って立ち上がり、荒木専務と園田さんに笑顔で挨拶をした。
「ちょっと、待ちなさい!!」
先に歩き出した佐伯さんの後を追うように足を進めていた私と蓮の背後から、怒気を含んだ園田さんの叫び声が聞こえてきた。
最初のコメントを投稿しよう!