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洋館の入り口は開いていた。吸い込まれるようにするりと黒猫が入っていくのを少女は追いかける。
ヒヤリと、外の湿った空気とは違う冷たさを感じて、少女は身震いした。天井の高いエントランスに少女の靴音が響く。
「……だれか、いますか?」
消え入りそうな少女の呼びかけに応える声はなく、当然だが人の気配など一つもしない。しかし、少女には分かっていた。
ここに、誰かがいる。という事が。
ほら、向こうで足音。
ほら、階段で笑いあう声。
ほらほら、エントランスに響く足音が、ひとつ……増えてる。
「ナツ。もっと中に入って。扉が閉まる」
少女にそう指示したのは、足元の黒猫だった。ナツというのは少女の名前のようで、名前を呼ばれた少女はコクリとうなずいて足を前に踏み出す。
背中で今まで開いていた大きな扉が音も立てずにぴったりと閉まる。それを待っていたかのように、エントランスは眩しいほどの光に包まれた。
暗闇に慣れてしまっていた少女の目が容赦なく光りに襲われ、驚いて目をこすった。
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