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次が決して訪れる保証がない、別れ。
もう逢えないかもしれない、別れ。
今生の別れ。そんな大袈裟な別れの気持ちにさせられてしまう。
周りの人からしたら、何でもないそんな空間やけど、へたすれば、まつださん自身も何とも思ってない、一途な一方通行な想いだ。そう思ったら何か、眼の奥が熱くなってきた。
でも、また逢える事を信じて声を振り絞る。
「うん。僕も楽しかった。まつださん。いつも、あの駅から電車乗ってるの?」
「うん。そうやで」
「やったら、また逢えるかもやね。」
「ホンマや。また電車に乗る時間が一緒やったら会えるかもです」
そう言った後、静かに電車が止まって車両の扉が開いた。
扉を出たら、また違う世界が待ってるような、夢から覚めた、ホントの世界が待ってるような気がした。
まつださんは、笑顔で立ち上がった。
「では、またね。」
まつださんは、笑顔で手を振って現実の世界へ出ていった。
甘い匂いと、あのふんわりとしたオーラの欠片を残して。
そして、扉はまた静かに閉まった。
まつださんは、直ぐに立ち去ってなくって、電車が動いて見えなくなるまで立っていた。まぁ一瞬で見えなくなったけど。授業にギリギリやって言ってたのに、立ち止まってくれてた。
そのさり気ない事が今の僕には堪らなく嬉しかった。
淀屋橋の駅の灯りが見えなくなった時、僕は夢から覚めたように感じた。
ポツンと空いた僕の横の席に、別の女性が座り込んだが、思わず、「あっ」と声が出た。無意識に。
変な顔をされたが、何の事はない。何かさっきのさっきまで、まつださんの存在があったのに、そこにはもういない。その空間をぶち壊された感があって。
そうして、僕の途轍も長い30分の通勤電車の時間は幕を閉じた。
胸の奥が締め付けられるような感覚を残して……。
『まつだふみ』とんでもない女のコに出逢ってしまった事は間違いない事実。
また出逢う事を信じて、僕も現実の世界へと、足を進めた。鼻の奥にまつださんの匂いを残して。
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