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「ねえ。世界は汚れていると思わない?」
漆黒の闇に抱かれた庭園で、少年は世界を映し出す泉を見つめながら、傍らで片膝を着く男へ訊ねた。
問い掛けられた男は少年より随分と年上で、顔立ちこそ整っているがしわが目立ち始めている。
「そうですね。我が主」
しかし、男は丁重な言葉使いで少年を肯定し、主従関係を露わにした。
年場もいかない少年は、含み笑いをしつつ頭上を見あげる。
夜空に爛々と輝く星達は知っているのだろうか。
かつて巻き起こった聖戦を。
幾億年も世界を見下ろし続ける星達に訊ねてみるが、少年の望む答えは聞けない。
少年は辺りを見渡した。
かつて神々の恩恵を受け、常に荒れる事の無い光に満ち溢れた庭園は、今となっては見るも無残な姿に成り果てている。
足元を覆う芝生は枯れ、花や木々は漆黒に染まり、かつては白亜の壮観な宮殿として名を馳せたものも、屋根は吹き飛び柱は折れ破壊の限りを尽くされていた。
唯一、少年の眼下にある泉だけがかつての姿を保ち、漆黒の世界を映し出している。
しかし、この泉さえあれば他に必要なものは無い。
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