蜉蝣の恋文<カゲロウノラブレター>

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嗚呼 夏の獣よ 朧気な夏の獣よ わたくしの想いを伝えておくれ わたくしの心を届けておくれ 汗ばんだ背中に 焼けた畳が貼り付く わたくしは臆病者なのだ わたくしは一夜の蜉蝣なのだ 君の返事を考えると 消えてしまいたくなるのだ それでも伝えねばならぬ それでも届けねばならぬ 君を愛したわたくしが居たと云う事を 今にも戦火はここに襲いかかり 全てを瓦礫に変えようとするだろう 君をも灰に変えようとするだろう 嗚呼 夏の獣よ 朧気な夏の獣よ わたくしの想いを伝えておくれ わたくしの心を届けておくれ 臆病者のわたくしは原稿用紙の上に汗ばんだ万年筆を投げ出し 開け放たれた窓越しに夜空を眺める ふいに吹き込んできた涼を含んだ風が 赤い金魚の描かれた風鈴を揺らした ちりん。
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