詩

笑った

あの人が笑った。

私を見て笑った。

連れていた綺麗な女性。

ああ、幸せになったんだ。

そう思って。

私も笑った。

女性も優しく笑った。

涙、出てきてないよね？

笑顔引きつってないよね？

ちゃんと、笑えてるよね？

大丈夫。

〝おめでとう〟

〝結婚するの？〟

〝……そっか、早くプロポーズしなよ〟

〝わたし？　今は幸せよ、すごく、幸せ〟

〝心配なんかしなくていいから〟

〝ありがとう〟

その言葉であなたはまた笑った。

〝相変わらず君は強いな〟

そんな言葉を残して。

どこにでもあるような小さなカフェテリアでの出来事で。

アイスコーヒーに入っている氷が溶けていく陽気の中で。

幸せな二人を見て、私は笑った。

満面の笑みで。

そして、二人が帰ったあと。

何食わぬ顔でカフェテリアを出て。

人影の少ない路地で

野良猫がこっちをにらんでるのを横目に。

ひとり、大泣きした。