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目の前の黒い猫は少し視線を彷徨わせて、 「……………わかんない」 とだけ言った。 一応人間の言葉は分かるし話せるみたいだから、意思疎通的には問題はないだろう。 「…………わかんない、んだ。なーんにも。何でここにいるのかも、何で君と話しているのかも。なんにも、わからないの」 だけど、続けて言った。 顔を俯かせて。 つまり、記憶喪失ってこと? 「名前は、分かるの」 見た目は百歩譲って人間だけど、中身は猫みたいだ。 頭を撫でながら聞いてみた。 黒い猫は頷く。 「………みなも」 「オレは城之内 紅成。よろしく、みなも」 「………こう、せい」 ちょうど猫も飼いたかったし。 マンションだから飼えなかったからね。 それに、一人は寂しいと思い出したころだし、猫はだいっすきだし、昔飼ってた白猫思い出すからね。 いいんじゃない?悪い人でもなさそうだし。 とか思って。 そうして、オレたちの奇妙な二人暮らしが始まったんだ。
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