いつもの夏の日のこと

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その日は夏休み初日だった。 僕はお小遣いでもらった500円を片手にお気に入りの雑誌を買い、人気漫画を読みながら見慣れた道を歩いていた。 「おいのび太!いいもんもってんじゃねーか!」 耳にまとわりつく騒々しい声。一瞬で分かる威圧的な言葉選び。不愉快な蒸し暑さを忘れるくらいの唐突な略奪。そうジャイアンだ。 彼は僕の雑誌を奪い、泥まみれの汚い手でページをめくる。 僕は手元に残った雑誌が入っていた袋を握り締めて一言放った。 「じゃ・・・ジャイアン。これ・・おもしろいよね。」 「あっ?俺様が読んでるんだよ。静かにしていろ。」 僕は勉強は不得意だ。しかし、この四字熟語だけは覚えている。 「弱肉強食」 先生は昔の恐竜を例に出しこの四字熟語の説明をしたが、僕はこのいつもの風景を連想した。 つまり僕は肉だ。 僕はスーパーのパックに入って売られている肉。 何もすることはできない。ただ買われて消費されるだけ。 「おうこれおもしろいから、もらっていくぜ」 「えっ」 違う。僕は肉じゃない。人間だ。ジャイアンと同じ人間だ。 「ジャイアン!それまだ僕が読んでいるから返してよ・・・。」 声が出なくなってきた。彼は僕の呼びとめる声に対して、睨むという原始的かつ、露骨な敵意を見せて来た。 僕はそれに対抗できない。力がない。知恵がない。何より、度胸がない。 「あっなんだよのび太。」 「いや・・・読み終わったら返してね・・・・。」 「はいはい。じゃーなー」 彼はそう言うと、汗でベトベトになった、シャツとズボンの間に雑誌をねじ込み、口笛を吹きながらその場を去った。 悔しかった。 目から涙がひとりでに出てきた。 復讐したい。目に物を言わせてやりたい。 そこで僕はドラえもんの顔が浮かんだ。 ドラえもん。22世紀から来た僕を助けるために来たネコ型ロボット。 僕の親友。困ったときのに僕を助けてくれる親友。 僕は家へと急いだ。
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