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somnium01:君を知らない
「うんざりしてるんだ」
明かりがない部屋の薄闇の中で窓辺の彼は呟いた。
「僕はうんざりしている」
「そう」
短くこたえて、私はただぼんやり彼と彼の独白を見つめた。
窓から僅かにそそぐ月明かりに照らされた彼の横顔はとても美しい。幼さを残しながらも、目鼻立ちのくっきりした端正かつ中性的な彼の顔立ちはまるで耽美的に描かれた西洋の絵画を思わせた。
「本が好きなのね」
薄闇に慣れ始めた目で見回した部屋には、沢山の本がところ狭しと積み上げられていた。
カミュ、バルザック、モリエール、ゲーテ……教養のない私にはまるで縁のない洋書ばかり、ずっしりと重厚感のあるハードカバーは、見るからに近寄りがたい雰囲気だ。
目を細めて表題を読み取ろうと試みて、すぐに諦める。頭が痛くなりそうだった。
「ねえ」
再び彼が口を開く。
どきりとして、半ば反射的に彼に視線を戻すと彼は此方に顔を向けていた。先程までの独り言とは違う、今度こそ私に向けられた言葉なのだと知る。
「どうして?」
紡いだ言葉が震えている。なんだか、どうして、私は恐ろしかった。今まで彼が私を認識したことはなかったのに。
一体、どうして。
今、彼には間違いなく、私が見えている。
私は酷く混乱した。
これは、これは、私の一人遊びじゃ、なかった?
「ねえ、絶望したの?」
私が恐怖に震えていると、彼は驚く程屈託のない笑顔でそう言った。
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