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「スパイする会社は、S社だ」
「はい?」
俺は自分の耳がおかしくなったのかと思った。本物だとか、産業スパイだとか言われ、ついには自分の勤める会社にスパイしろなどと、社長は言う。
「混乱しているようだね」
社長は楽しそうに笑っていた。もし、俺の耳や頭がまともだったら、社長が狂ったとしか思えない。
「混乱するのも無理はない。S社はS社でも、別の世界のS社を産業スパイしてもらいたいのだ」
「別の世界のS社?」
「平行世界という言葉を知っているかね。こことは、少し違った世界が私達の世界に平行するように存在している話だ」
頭がどうにかなりそうだ。社長に呼び出された理由が、平行世界の会社へ産業スパイをしにいけという命令なのだから。
「あちら側の世界は、こちらとは違って好景気らしい。そこで、どんな商品を扱っているのか、調べてきてほしい」
「バレませんか?」
「あちら側に正体がバレる可能性か?それはない。さすがに、平行世界に移動すると、無茶が生じるらしく、世界と世界の境を越えると、あちら側に記憶と存在を書き換えられるのだ。よって、あちら側、君達をこちら側だと思うことはない」
「ちょっと、待ってください。ということは、俺達は、この世界から淘汰されるということではないですか!」
同僚の言う通りだ。あちら側の記憶と存在に書き換えられたら、こちらでの生活が全て、無かったことにされてしまう。地位も財産も何もかも、放棄しなければならない。
「分かっている。確かに、この仕事は、過酷で残酷だ。最悪の場合、こちら側に戻ってこられなくなるかもしれない。我が社は、君達に密かに小型で高性能なカメラを持たせようと思う。それを通して、あちら側の情報を得ようと思うのだ。もし、成功したあかつきには、戻ってき次第、給料も十分に用意するつもりだ」
俺は正直、何と返事をすればいいのか戸惑った。会社に忠誠を誓ったとしても、ここでの生活を全て捨てろなどと、あまりにも乱暴な話だ。
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