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さすがに、無茶苦茶な社長からの命令に社員は反発した。
「冗談じゃない!戻って、これる保証もない世界なんかに、行きたくない!」
「どうして、連れていくというのならば、この会社を辞めます」
怒りを露わにした私を除く是認が社長室を飛び出していった。だが、これは、まずいのではないか。平行世界へ産業スパイしにいく話。もし、言いふらされでもしたら。
「大丈夫だ。あちら側の話など、他人に話したところで、頭でもおかしくなったのではないかと思われるだけだ。まともな大人なら他人に言いふらすようなマネはしないだろう」
社長は落ち着いていた。確かに、社長に直接、話を聞かされても信じられない。それを、彼らが他人に話したところで、作り話だと思われるか、社長にからかわれたと笑われるのがオチだ。
「それで、君は行ってくれるのかね」
「はい。俺には家族も兄妹もいませんし、結婚もしていません。あちら側に行っても疑われることはないでしょう」
怪しい話ではあるが、これは一世一代のチャンスだと思った。うまく戻ってこれたら、大出世は待ちがないない。このまま、平々凡々と生活していてもうだつが上がらず、きっと一生を平社員として過ごすことになるだろう。それだったら、いっそのこと、危険覚悟で挑むのも悪くなかった。
俺はあちら側に行く準備をと、言われたが、さしてやることはない。何かをあちら側に持っていっても、こちら側の人間だとバレてしまうだけ。戻ってこられるか、どうかさえ分からないのに、準備など必要なかった。
まあ、せいぜい、やることと言ったら社長に住み慣れた安アパートの一室が借られないように、頼んでおくことぐらいだった。
会社の重役に案内され、あちら側へと抜けられる秘密のトンネルへと着いた。このトンネルを抜ければ、俺は今までの自分とおさらばすることになる。あちら側では、どんな自分と生活が待っているのだろうか。
おっと、社長からの指令書と小型カメラを忘れてはいけない。これがなくなったら、自分の目的を見失ってしまう。
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