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「シュナウザー?」
玲は、運転席でハンドルを握る豊に聞き返す。
豊は前を見たまま、言った。
「そう。犬のシュナウザーね。
毛のクルクルした。
あれ、欲しいって言うんだよね。」
「へえ。」
「俺、面倒臭いんだよね、犬って。
可愛いけどさ。そんで、18万とかするし。どう思う?」
「さあねー。」
玲は笑い出す。
豊はこの頃、鼻の下と顎に薄く髭を生やしていた。
彼によるとデザイン髭、とかいうらしい。
「買ってあげれば、いいんじゃない?」
玲は指先で、豊の顎髭に触れながら言った。
「新婚なのに、子供いらないっていわれたら犬ぐらい欲しくなるよ。」
豊は表情を変えずに言った。
「そうだよなあ。買うかな。」
午前10時を少し過ぎた。
車は大船を過ぎ、葉山へと向かっていた。
空には早い夏雲が出ていた。
こんなに晴れているのに、もったいないな…
玲は思う。
玲と豊が向かっている場所は、天気など関係ない場所だったから。
豊が子供を拒否する理由は、
『玲と会いにくくなってしまうから。』だと言った。
葉山のモーテルの部屋はアカレヤシの鉢が置かれ、海をイメージしたインテリアは南国のリゾートホテルを思わせた。
この部屋は玲のお気に入りだった。
玲は、ベッドに横たわり、白い清潔なシーツの冷たい感触を素肌で味わう。
それを邪魔するのは、豊だ。
玲の片脚を持ち上げ、足の甲にキスした後、唇を這わす。
玲の足の親指から小指まで口に含み、爪先から踵まで丹念に舐めていく。
豊の生温かい舌の感触。
ずぶずぶと底無し沼に、はまっていくような感覚…。
玲の口から悩ましい声が漏れる。
豊は女の脚を舐めるのが、好きなのだ。
初めてそれをされた時に、玲はきゃっと叫んで、危うく豊の顔を蹴飛ばしそうになった。
男にそんなことをされたのは初めてだった。
『軽く変態だよね。』
玲がそう言うと、豊は照れ笑いした。
『嫌い?』
玲は、豊の顔の前に右脚を突き出し、言った。
『好き。
気持ちいいから、もっとやって。』
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