想い出の男

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ふと、プールサイドに立っているスポーツ刈りの監視員が自分のことを見ている気がした。 (もしかしたら、知っている人かもしれない?…中学の同級生とか。) 玲はなんとなく気になってきて、彼の方を見ると、視線が合ってしまった。 (あっ…!) 慌てて視線を外した。 やはり見覚えはない。 (よく見れば、思い出すかもしれない…) そんなことを考えると、ついチラチラと見てしまい、監視員と何度か目が合ってしまった。 すると、監視員は、玲に向かってわずかに頭を下げた。 (うわあ…どうしよ。) 引きつった笑いを浮かべ、玲も頭を下げた。 30分ほど前、おニューの競泳水着を着た玲がプールサイドに出た時、その監視員は玲を見て、あっと驚いたような顔をした。 プールには、お年寄りや親子連れがぽつぽついるだけで、玲のような若い娘はいなかったから、目立ったのだろう。 「こんにちはあ! プールに入る前に準備体操してくださいね!」 監視員は、玲の方へ近づくと人懐こい笑顔で、元気よく言ったのだ。 玲を意識しているのは明らかだった。 彼は見事な体をしていた。 肩、二の腕、胸に盛り上がった筋肉がついていて、いわゆる逆三角形、という体形だった。 その体にスパッツタイプの競泳水着を履いていた。 その胸板の厚さと逞しさに、玲は生々しいものを感じて赤くなってしまい、 「はい…」と俯いて答えた。 二十歳になったばかりの玲は男を知らなかった。 男と付き合ったこともなければ、恋をしたこともなかった。
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