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緒方真奈依はぼくのグラスに烏龍茶を注ぐと、「よし! 乾杯しよ。ちょっと待ってて」と、また席を立った。
彼女の言葉にワッキンも「そうだな。早く戻ってこいよ、まな板」と、口に近づけかけたグラスをテーブルに置く。
次に緒方真奈依がぼくらの席に戻ってきたときは、彼女は一人ではなかった。
「なに? ホントになにも焼いてないじゃん」
緒方真奈依と並んでやってきた、両手に肉の乗った銀色の大きな皿を持つ、髪の長い少しふっくらとした女性が、呆れたように言った。
「せっかくの美作の肉なんだからたらふく食わなきゃもったいないぞ」
緒方真奈依の背後からはビール瓶を持った茶髪で眼鏡をかけた半袖のワイシャツ姿の男が現れて、ぼくの隣に腰を下ろす。
「ちょっと、ミルキー! そこ、あたしの席なんだけど!」
酎ハイらしきものの入ったジョッキを片手に、緒方真奈依が眼鏡のワイシャツを押し退けて割り込む。
「なに? 真奈依、あんたまだカンちゃんをあきらめてなかったの?」
ワッキンの隣で、テーブルに皿を並べながら、ふくよかな女性が目を丸くして笑った。
「それで、そんな気合い入れたミニスカはいてんのか? 人妻のくせに」
ワッキンがタワシ頭をテーブルの下に潜り込ませる。
ガン! とテーブルが大きな音を立てて揺れたと思ったら、すぐにワッキンが鼻の頭を押さえて頭を上げた。どうやら緒方真奈依の蹴りを喰らったらしい。
「あんたら、うっさい! ほら、乾杯するわよ。はい、乾杯!」
みんなが準備をするのを待たず、緒方真奈依はぼくのグラスにジョッキを軽く当てた。
ぼくは、一気に騒々しくなったこの状況に躊躇しながら、とりあえず烏龍茶を口に含むしかなかった。
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