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 彼女はそう言って、少し間を置いた。  きっとそれは、ほんの数秒だったけど、ぼくはその間にも彼女の名前と繋がってるはずの十七年前の記憶の糸を手繰っていた。  だけど、やはりその先に彼女の名前と結びつくよう思い出は見当たらない。もしかすると、ただの同級生というだけでそれほど親しい間柄ではなかったのではないか、そんなふうにも考えた。  だとすれば、どんなヒントを与えられたとしても彼女と繋がることなどないのかも知れない。 「えっとね……」  彼女が、ぼくに与えるヒントを思いついたらしい。 「しかくいお月さま」  もう少し具体的なヒントをもらえるものだと思っていたのに、彼女が発したのは、まるで童話のタイトルのような、その一言だけだった。  しかくいおつきさま? 本当にそれがヒントで、君はそんなヒントでぼくに思い出してもらえると本当に思っているのか。そのヒントの中にどんな意味や思い出があると思っているのかわからないけど、残念ながら、ぼくにはまったくわからない。 「しかくいおつきさま」  考えるふりでもしようと、それを声に出してみる。  すると、なぜだか、言い終えた途端にじわりと胸が熱くなるのを感じた。
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