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脳裏に、とても愛らしく笑う少女の顔が浮かぶ。たしか小学生時代のぼくは、いつも彼女の姿を目で追っていたことを思い出した。そして、いつだって彼女はぼくのそばで笑っていた。
「ああ……」そうか、君だったのか。あの頃、あれほど大好きだった君を、ぼくはどうして思い出せずにいたんだろう。
「思い出してくれた?」
電話ごしにでもわかるくらいに、君は嬉しそうに笑った。
それからぼくらは、時間を忘れて話し込んでいた。
君の名前も、君の顔も、君とのいくつもの思い出も、ちゃんとぼくの記憶の中に残っていた。
「今度のクラス会には必ず来なさいよね。七月の、最後の土曜日だからね」
そう約束させられて電話を切ったのは、もう夜が明ける頃だった。
出勤時間までは少しは眠れそうだと、布団に潜り込み、彼女のことを思い浮かべた。
不思議なことに、さっきまではっきりと呼んでいた彼女の名前が、すっぽりとぼくの記憶から抜け落ちていた。
その名前とようやく結び付いたはずの君の顔も、また思い出すことができなくなっていた。
ただ、胸のあたりのじんわりとした温かさのようなものだけは、しっかりと残っているし、どんな話をしたのかは覚えている。
「しかくいおつきさま」
小さく呟いてみたけれど、もうそれで彼女の名前や笑顔を思い出すことはできなかった。
だからと言って、それが悲しいわけではなかった。
目を覚ましたときには忘れてしまっている夢のように、ぼくはそれを当たり前のことのように感じていた。
元学級委員長の岸さんから今回のクラス会の案内状が届いたのは、それから数日後のことだ。
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