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「ちょっと! 誰がまな板よ? 失礼ね!」
緒方真奈依はそう言うと、ふんと鼻を鳴らして胸を張った。
一応説明しておくと、『まな板』というのは緒方真奈依の『マナイ』という名前をもじった小学校の頃の彼女のアダ名だ。クラスの男子はだいたいそう呼んでいた。
そのアダ名には決して、当時の彼女の胸がぺたんこだから……なんていう意味は込められていなかったはずだったが、名は体を表すとはよく言ったもので、現在、ぼくの隣で頑張って突き出した彼女の胸はお世辞にも大きいと言えるものではなかった。
「まな板じゃねぇか!」
タワシ頭が大笑いしながら豪快に入れたツッコミに、ぼくは思わず吹き出した。
「二人とも笑いすぎだし」
緒方真奈依はぷいっと頬をふくらませる。
彼女のことを本当に傷つけたのではないかと、ほんの一瞬過ったけれど、彼女がすぐにぼくのほうを見てにこりと笑ってくれたおかげで、そうではなかったのだとわかり、ほっとした。
そう言えば……。と、以前にもこれと似たようなことがあったような気がした。
たしか、今のように僕は緒方真奈依を傷つけたのではないかと彼女の顔をのぞき込み、彼女はそれに笑顔で返してくれた。
その原因になった出来事は思い出せない。もしかしたら単なる既視感というものなのかも知れない。
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