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夕暮れ時
景色はオレンジ色に染められ、見つめ会う二人も色付いて…
港内で波に小さく揺られている白い船も、今はオレンジ。
恋人たちを祝福するように二人を隠してくれる。
潮の香りがする海風が、鼻をくすぐりながら髪を靡かせる。
「好きだよ、紗彩矢。」
「…私も…好き。」
彼の手に引き寄せられて優しい温もりに包まれる。
ドキドキが止まらない。
そっと顔を上げると輪郭のシャープな顔がゆっくり近づいてくる。
恥ずかしくて思わず目を閉じる
と…
無情にも…
ああーぁ、また…
胸はまだ早打ちしていて甘い余韻があるのに…。
「ああん、もう、後少しだったのにー。」
続きが見たくて、口をタコのようにつき出してもう一度寝ようと目を閉じても、唇は降りてこない。
酷い、酷すぎる。こんなにドキドキキュンキュンする夢を見せて、いいところで現実に引き戻す。
夢の中の彼が恋しくて仕方ない。
彼は夢の人。
名前も知らないから、この頃は『夢男』と呼んでいる。
半年前から毎日のように夢男が朝方の夢に出てくるようになった。
彼はいつも優しく抱き締めて甘い言葉をくれる。
場面は野原だったり、学校だったり、図書館だったり…
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