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「…ぁ…、で……、…ん…っ、……で…ッ………!」 空気と、赤黒い水とあぶくを溢れさせる喉からほとばしるのは、無音の絶望と裏切られた『祈り』だ。 目の前に佇む相手の背後―――不様に這いつくばったまま睨み上げた先、段々と明るさを増していくその穹(そら)の高みから、ふわりふわりと夢のように舞い降りてくる柔らかな『光』を見る。 新雪にも似たそれの核は『純白の羽根』だ。 目の前の相手の視界にも、当然終わりなく降り注ぐそれらは映っていない筈が無いというのに、その目は依然として自分の上から動かない。 黒く濁る淀みの中、醜く足掻く自分だけをその灰藍色の瞳に映したまま、彼の背後で次々と舞い降りてくる『悪意』と『敵意』とを無視し続ける。 「…っ、……げ…、…ぉ…ッ!」 『逃げろ。』と紡がれる筈の音は形にならず、びきびきと肉の裂ける感覚と滑(ぬめ)る感触が喉元を這う。 無理だとわかっていても、告げずにはいられない。 ………この人だけは。 あなただけは。 一度は鎮めた黒い激情を引き摺り出す。 心臓の裏側、底無しの『闇』に爪を立てて抉り出し、無理矢理引き摺り上げようとした黒い殺意が、唐突に与えられた暴挙に霧散する。
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