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衝動に力を得て、もう既に限界の腕と脚で勢いよく起こした身体を蹴り飛ばされた。 肩に衝撃を感じた直後、またも赤黒い濁りの中へと、強制的に戻される。 「……はぁ。………無駄な力、使わせんな。」 だりぃ。 呆れ混じりの溜め息をひとつ。 そうして心底面倒そうに告げて、もがく自分を上から押さえ付けたその人を思わず睨む。 何故? どうして邪魔をする!! 「………それ以上やったら、『心核(コア)』保たねぇーだろ。……『再生』も出来なくなんだろーが。」 ゆっくりと身を傾げ、間近に顔を寄せて話す相手に顔を歪める。 ………『心核(コア)』。 『魂殻(シェル)』と呼ばれる宝石のような殻に守られた、《悪魔》と呼ばれる自分達の、精神の在処(ありか)。 《人》と《悪魔》を繋ぐ鎖。 強大すぎる力の『源』、………当然制約はつく。 強すぎる力を内包するが故に、行使するにも行使した後にもけして小さくはない『代償』が伴う。 負荷が過ぎれば壊れもする。 ………だがそれがどうした。 目の前の人間と比べれば、どちらの比重が上かなど考えるまでもない。 今この瞬間の躊躇を後悔に変えるくらいなら、迷わない。 だから、 「………お前と『同じ顔』の『赤の他人』なんざ、気色悪ぃだけだろうが。」 『そこをどけ。』と、告げる筈の言葉が喉の奥で消える。 反射的に小さく息を呑んだ自分を、険を増した表情と声とが責めてくる。 「……わからねぇ筈ねぇだろ、…見くびんな。テメェの考えなんざ、はなから読めてんだよ。」 あの時選べた『最善』が何か、自分が何と何を天秤にかけたかを知っていると、彼は言う。 軍人として、人に従属する《悪魔》として、実に“お手本通り”の選択肢であったと。 「 ………だけど俺は『それ』をお前に望んだか? 」
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