3人が本棚に入れています
本棚に追加
元々低い体温が更に下がり、白い指先がかじかんだように感覚が薄い。
『赤』から『黒』へ。
じわじわと色を変え行く水溜まりに佇み、もう一歩も動けない。
ただだらりと体躯の横にぶら下がるばかりの右腕は、握り締めたまま硬直した手に辛うじて武器を持ってはいても、もう振り上げることも降り下ろすことも不可能だ。
僅か持ち上げることすら叶わないかもしれない。
今、目の前に倒すべき対象がいたとしても。
「……………。」
………静かだ。
とても。
何とかやり遂げた。
護りきれた。
安堵は大きい。
けれど、罪悪感も自己嫌悪も深い。
……交わした『約束』を、自分は守れないかもしれない。
「………。」
口にしたい名は、音にならない。
掠れた吐息と、水泡が微かにはぜるような小さな泡立ちとが、唇と喉元から間抜けに溢れ落ちるばかりだ。
「………っ………。」
細かに痙攣し始めている脚に力を籠める。
一歩、歩み出そうとしてふらめいた。
………かえらなければ。
帰ると、約束した。
這ってでも、帰る。
最初のコメントを投稿しよう!