3/10
前へ
/12ページ
次へ
元々低い体温が更に下がり、白い指先がかじかんだように感覚が薄い。 『赤』から『黒』へ。 じわじわと色を変え行く水溜まりに佇み、もう一歩も動けない。 ただだらりと体躯の横にぶら下がるばかりの右腕は、握り締めたまま硬直した手に辛うじて武器を持ってはいても、もう振り上げることも降り下ろすことも不可能だ。 僅か持ち上げることすら叶わないかもしれない。 今、目の前に倒すべき対象がいたとしても。 「……………。」 ………静かだ。 とても。 何とかやり遂げた。 護りきれた。 安堵は大きい。 けれど、罪悪感も自己嫌悪も深い。 ……交わした『約束』を、自分は守れないかもしれない。 「………。」 口にしたい名は、音にならない。 掠れた吐息と、水泡が微かにはぜるような小さな泡立ちとが、唇と喉元から間抜けに溢れ落ちるばかりだ。 「………っ………。」 細かに痙攣し始めている脚に力を籠める。 一歩、歩み出そうとしてふらめいた。 ………かえらなければ。 帰ると、約束した。 這ってでも、帰る。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加