7/10
前へ
/12ページ
次へ
. 「………想像以上にズタボロじゃねぇーか。……カッコ悪ぃ。」 ざまぁねぇな。 向かい合う相手の、黒く濡れた唇の端が吊り上がる。 衝動的に上体が前へ傾いだ。 目の前の相手に詰め寄ろうとして、失敗して膝から崩れ落ち、硬直した腕を突き支えにすることも出来ず、倒れ込んだ身体は水溜まりに沈む。 翼をもがれた羽虫のように、汚れた身体を更に黒く汚し、肉の欠けた右腕と両脚をもたつかせ、水溜まりの中懸命にもがく。 引き摺る足音と、地面に伸びた他人の影が近付くのを視界の端に捉え、ようよう震える肘を突き、上体を幾らか起こせたところで凍りついた。 「…っ、ち……、…しょ……ッ。」 畜生。 口汚い悲鳴はまともに音にならずに、裂かれた喉からほぼ呼気と化して漏れていく。 まだ『そこ』に在ったなら、武器を手にしない左腕は振り上げられ、罪の無い地面に幾度となく拳を叩きつけていただろう。 ………どうしようもない口惜しさ。 行き場を無くした苛立ちと、絶望と悲しみに荒ぶる心のまま。 ………ちくしょう。 畜生畜生畜生!!! .
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加