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季節が巡り、少しだけ空気が暖かくなってきただろうか。正直、まだまだコートは手放せないけれど。
予報通り、今日は曇り。ただ雲は薄い。うっすら、太陽のシルエットが透けている。
私はまた、あの川のほとりにやって来て花束を供え、手を合わせた。
カケちゃん、もう三ヶ月経っちゃったよ……と。
架<カケル>という名前だったから『カケちゃん』と呼んでいた後輩。彼は私にとって、初めてできた直属の部下。二歳年下で、まだ二十四歳だった。
あの悪夢の日。皆を避難させるために町を駆けずり回った彼は、この川を遡ってきた『悪魔』に飲まれ、命を散らした。
本当はまだ、死んだとは信じられない。いつかひょっこり帰ってくるのでは? 「おはようございます!」ってまた元気よく挨拶してくるのでは?
さら地と瓦礫の山しか残らない今の町からは、本来の時の流れが失われてしまっている。
あの『悪魔』が、全てを奪ってしまったのだ。
川が、海が、なんだか嫌いになった。誰のせいでもないことは分かっているけれど。ともするとまた、あの悪魔が現れそうな気がしてしまう……。
やめよう、やめよう。これから町を復興させなきゃというところなのに、そんなことを考えていたら鬱になる。
私は合わせていた手を解き、立ち上がった。ついでに垂れ下がってきたサイドの髪を耳にかける。控えめな茶色のカラーを施したこの髪も、そこそこ伸びてきたな。
ふと人の気配を感じ、私は振り返った。見ればバレリーナのような、ふんわりしたスカートを穿いた少女が歩いてくる。縦ロールさせた赤茶色の髪といい、ブルーの瞳といい、どう見ても外国人っぽい。十歳くらいだろうか。手には古びた杖のようなものを持っていて、まるで童話の世界の住人みたいだ。
それにしても、不思議。こんな所に外国人の女の子がいるなんて。
少女は立ち止まり、こちらの出方を探るかのように首を傾げる。
とりあえず私も英会話スクールに行っているから、日常会話くらいの英語ならどうにかなる。何か、話してみよう。腰を曲げ、目線の高さを下げてから。
「えっと……Where are you f――」
拙い英語で喋り始めてみるが、驚いたのはその後だった。
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