悪夢のあの日から、三ヶ月。

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「あたしは、リシェル・シャトーダルジャンよ」  なんと、少女の口からは流暢な日本語が飛び出したのだ。 「日本語喋れるの?」 「だってあたし、幽霊だもん。なんなら触ってみてもいいよ」 「えっ!?」  リシェルと名乗った少女の言う事は、にわかには信じがたかった。何しろ、一般的な幽霊のイメージとは違いすぎる。育ちの良さそうな、外国人のお嬢様にしか見えない。  それでも確かめずにはいられないので、そっと少女の小さな肩先に触れようと手を伸ばす。  ……すり抜けた。確かに、少女の体はそこになかった。 「嘘……っ」 「信じて貰えた?」  リシェルが自信に溢れた笑顔で問い返す。今時の人気子役を彷彿とさせるその愛らしさに、驚きを露にしていた私の口元も自然と綻んでしまう。 「どうやら信じるしかないね……。でも私全然霊感とか無かったし、初めて見たのがこんなにお洒落で可愛いお化けなんて。びっくりだけど、なんか嬉しい」  私がそう言うと、リシェルは今度は照れ臭そうに笑い、話を再開した。 「えへへっ、ありがと。お姉ちゃんの名前は?」 「あ、ごめん言ってなかったね。私は、麻綾。穂積麻綾<ホヅミ マアヤ>だよ」 「ふ~ん、マアヤお姉ちゃんかぁ」  こうしてすっかりお友達感覚で自己紹介した私達だけれど―― 「そこの花束は?」  リシェルのこの質問には少し困った。話せばそこそこ長くなる。だが、相手が子供だからこそ、ちゃんと分かりやすく話す必要がある。私は大きく息を吸ってから、語り始めた。 「……この前、津波で大勢の人が亡くなったのは知ってるかな? 私の家族も、仲間も、沢山……。本当は、いつまでもくよくよしてちゃいけないと思うんだけどね。やっぱり、皆がいたことを忘れたくなくて」 「ふぅ~ん……。こっちの世界も大変なんだね」  こっちの世界、というのも何だか不思議な響きだ。リシェルの国は、良い所だったんだろうか。 「リシェルはどうしてここに?」  ほんの軽い気持ちで私がそう問い掛けると、しかし、リシェルの幼い顔が急に険しくなった。
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