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「うん、また会えるといいね! じゃあ、行くね」
無邪気な笑顔を残して踵を返したリシェル。その後ろ姿を見送りながら、私の気持ちにも変化が起きていた。
彼女が今後どうするのかは、よくは分からない。ただ一つ確実なこと。彼女は強い。まだ子供で、きっと辛い思いをしながら死んだハズなのに、あんなに堂々としているのだ。
私も自分を強く持たなければ。あの未曾有の大災害を生き延びたのだから。こうして立ち止まっていては、リシェルにも、カケちゃんにも顔向けできない。
ちゃんと考えよう、これからの事を。町の復興の事も。
私が一つ伸びをしてその場を後にしようとした時。ふいに「あっ、」とリシェルが振り返った。
「マアヤお姉ちゃんの隣にね、若い男の人のお化けがいるよ。お姉ちゃんとすっごいお似合いだから、彼氏かと思っちゃった。それだけ。じゃあね!」
テヘッと白い歯を見せ、手を振ってまたくるり。しかしそんな彼女の姿をちゃんと見る余裕も無く、私の体は一瞬で熱くなった。
「カケちゃん……?!」
動揺を隠せないまま、きょろきょろ。思わず左右を見る。しかし……誰もいない。
ふわり。一陣の風が優しく、私の髪を撫でて駆け抜けた。
「カケちゃん、私……」
今だから言える。正直私は、彼のことをちょっと好きになりかけていた。先輩後輩の関係だから、当分は本気にならないよう、理性というブレーキをかけていたのだけれども。
しかし今、私が彼の姿を見る事はなかった。同じ幽霊であるリシェルの姿は見えたのに、だ。それには、理由があるに違いない。
私は考えた。きっと彼は私の気持ちを知っていて、あえて姿を見せなかったんだろう。私が過去を振り返らないように。
だから、私は――
「……やっぱ、なんでもない」
おどけたように、そんな一言を残すだけ。
気づけば雲の切れ間から、太陽が顔を覗かせている。風が川面に波を立てれば、川はダイヤのように美しく煌めく。結局、自然は怖くもあるけど、やっぱり偉大だ。
そして、あの赤毛の少女はどこへ向かうのだろう。
少女が歩いて行った方を見ると――
そこにももう、誰もいなくなっていた。
~~End~~
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