6:リスクのないクスリはない

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旅行から帰ってから10日経った。1錠だった嗣人くんの薬の量は、あれから増えて、2ケタになった。 それだけたくさんの量を飲んでるんだ。薬は存分に効果を発揮し、嗣人くんが幻覚を見ることはなくなった。 しかし、薬には副作用がある。嗣人くんは幻覚を見なくなる代わりに、一日のほとんどを寝て過ごすようになった。 そんな状況でも、薬が効いた嗣人くんは気にしない。起きている間は、酒が入ってるように明るかった。なんの悩みもないような、腑抜けた感じ。その姿は、俺が知っている嗣人くんとはまるで違う、別人みたいだった。 嗣人くんの急激な変化に馴染めないのもあったが、俺は、どんどん増えていく薬の量と種類に、言い様もない不安を感じていた。 嗣人くんはこれからどうなってしまうのだろう。先生も一花ちゃんも、薬を与えることはしても、薬を取り上げることはしない。 家族がゴーサインを出しているんだ。他人の俺がどうこう言っていい問題ではない。それに俺はあの日、実際に先生に言われた、これは家族の問題だと。 遡ること、1ヶ月前。7月4日。俺が、嗣人くんと先生に違和感を覚えたのも、この頃だった。
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