6:リスクのないクスリはない

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「先生、最近、嗣人くん変じゃない?」 その日は金曜日で、俺は毎週そうするように先生の家に泊りにきていた。 「そう?どういうふうに?」 夕食の食器を洗いながら、先生が聞いてきた。 「んー、変に明るいっていうか、あんなだったかなって」 俺は少し考えたあと、そう答えた。 この頃はまだ、嗣人くんも今ほど壊れていない。まともな会話のキャッチボールができていた。 「あんな感じだったよ」 食器を洗う手元を見つめたまま、先生は言った。 「いや、全然違う」 納得がいかなかった俺は、すぐさま反論した。 「やっぱり先生、なんか変だよ」 嗣人くんは情緒不安定で、感情のブレが激しい。それが常にくじ引きが当たったみたいな顔をしているのは、正直変を通り越して不気味だった。あんなの、全然嗣人くんらしくない。 「じゃあ、今以上に嗣人が変なときってなかった?」 「……特には」 俺ははじめて先生に嘘を言った。 よくよく考えてみると、嗣人くんは変なとこだらけだった。人殺しだし、色んな男と寝るし、急に泣いたりするし、むしろ、それがなくなった今の方がまともなのかもしれない。でもそんなこと、先生には言えない。言ったら過保護な先生のこと、気絶くらいしてしまうかもしれない。 「同じ部屋で寝泊まりしてたんでしょ?」 今日は先生も変だ。やけに俺に追及してくる。 「一度でも変だなって思ったことは?」 俺は首をかしげた。 「さぁ、先生は?あったの?」 先生が食器を置いて、俺の方を見た。 「うん。あったよ」 先生とこうして目を見て話すのは、久しぶりだった。 Illustration by *ねこたつ*さま
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