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「眠い・・・・」
沙由美はけだるい午後の日差しの中、必死に眠らないように努力を続けていた。
長い黒髪がぱさりと教科書に落ちて、はっと気づくと教壇の教師は既に去ろうとしていた。
国語の授業が終わったのだ。
国語科の教師には寺院や神社関係が多い。ご多分に漏れず、この教科担任もお寺の住職と教諭との掛け持ちだ(急に葬儀が入ると自習になることもある)。だから朗読は慣れたものである。
その上、声が良く通るバリトンで、微妙な音波の振動と穏やかな節回しの朗読で、いやがうえにも眠りへと誘ってくれる。
もっとも、沙由美が眠いのはそれだけが理由ではなかった。
理由・・・。理由はない。
そう、毎日毎日、寝ても覚めても眠いのだ。
夜更かしをするわけでもなく、食後のシエスタの眠りでもなく、ただ漫然と眠いのだ。
何をしていても眠い。授業中だけではなく、家でテレビを見ていても、友達とおしゃべりをしながらお弁当を食べていても、次の瞬間にはもうこっくりこっくり船を漕いでいることがある。
「赤ちゃんみたい」
友人の希美子がこの眠気を評して言ったことがある。
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