嵐の来訪者

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嵐の来訪者

 爆撃みたいな雷鳴が轟いた。  閃光を視認してから数秒だった。これは、近くに落ちたな。  分厚い雨簾(あますだれ)越しに見る空には、どす黒い雲にあちこち稲光が毛細血管のような歪な線を引いている。  遠方に不穏な黒雲を目撃してからあまり時間は経っていない。突然の豪雨。……逃げそびれたな。  何処でもいいから今からでも雨を凌げる場所を探そうかと思うんだが、どうも都市(まち)の外れに来てしまったようで、手近に建物が無い。  辺りは、いつの間に公園に迷い込んだんだ? と思うような深い木々に囲まれている。どうやら、規則的に並んでいるらしいその木々と木々の間に、広い道らしきものがある。  道があるということは、その先に何か建物とかがある筈だ。それに一縷の望みを託して、あたしは木々の織り成すぶっとい道を小走りに駆けていた。  雨は最早、身を穿つ槍のようだ。打たれ続けていた部分にじんわりと痛みを感じ始める。たっぷりと水を吸った服が重量を増して、重石のように纏わりつく。間隙無く降り注ぐ帯状の水のせいで、呼吸もしづらい。  ……まだか、建物。そろそろこの責め苦から解放されたい。
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