第一章

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 軍用機とは明らかに異なる、旅客機のジェットエンジンの音が格納庫の天井板を揺さぶった。今日初めての民間航空機だ。軍用機ならば回転翼機も合わせれば、現在時刻1100時までに十五回は離発着している。 「民間機だ」 「違う。空軍の輸送機のエンジン。多分C-130Hハーキュリー輸送機。本土からの補充人員と物資の輸送が目的。帰りは戦死者の死体輸送」  一瞬ピクリと耳が動いた桜花は、弾薬を込める手を止めてつらつらと言った。 「詳しすぎキモッ」 「色情魔に言われたくない」 「だ~れが色情魔か!」  鼻で笑ってまるで相手にしない桜花に憤りを感じつつ、やる事も無いので揉み上げの枝毛を探す。  金髪に染髪したセミロングヘアと赤茶けた瞳が目を引くデルタの顔立ちは悪くない。寧ろ恵まれた顔立ちをしている部類に入る。キリリとした挑発的な赤茶の眼。長いまつ毛は自然と上向き。身長も低くは無いし足も短くない。  総合的に見ても世間で言う綺麗な女の部類に入る。  机に並べた5.56×45ミリNATO弾が詰った弾倉を等間隔、寸分の狂いなく整列させ、それを満足そうな無表情で眺め、スマートフォンで写真を撮る桜花は、枝毛探しに夢中なデルタに携帯の小さな口径を向けて、密かにシャッターを押した。 「入るぞ」  野太で低い男の声が暗幕の外から響いたと同時に、入口の捲り上げられた暗幕を潜って、大柄な四十も中ほどの男が入ってきた。 特殊部隊用に開発された帝国陸軍の戦闘服に身を包んだその男は、側頭部の髪を短く刈りあげ、残った長髪を一つに結わき垂らしている。幅広の肩幅と分厚い胸板で戦闘服を程良く着崩した、年季が入った古つわものの風格を纏う大男は、引きしまった表情で口元を固く結んでいた。
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