序章

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 人の温もりが恋しい気持ちは、日を増すごとに強くなるが、日を増すごとにその温もりから自分が離れているのだと理解すると、どこかやるせない気持ちになった。  自由を束縛する冷たい鳥籠。八畳ほどのその部屋を形容するのに、その言葉は最もだった。別段生活に不自由する様な条件は少ない。衣食住は十分。毎日風呂にも入れ、洋服は定期的に新しい物を渡される。食事は一日朝晩の二食だがないよりはまし。  ここに軟禁されて、いったい何日経過したのかは分からないが、少なくとも一月は経過しているのは確かで、今日もまたここでの一日が始まる。  白を基調とした味気のない部屋に木製のベッドと共に置かれているチェストの上に置いていた紙の切れ端に、白衣の胸ポケットにさしていたボールペンで一本線を入れる。どうやら、今日はここにきて六八日目の様だ。ボールペンの線の数が六八本に増えた。だが、今日が何月の何日なのかは思い出せない。記憶が既に曖昧で、最後の暦が思い出せないのだ。  いや、もう時間などどうでもいい。どうせここから自力で出る事は出来ない。白馬に乗った王子様はここには現れないし、そんなファンタジーを描くほど自分は子供でもない。  部屋の扉がノックされた。部屋のうちからは木目調に見える扉も、反対側は分厚い鉄製で、ノックの音も金属臭い。  扉は、返事をするより先に開いた、  入って来たのは緑色の迷彩服姿の男達。手には自動小銃。中東のテロリストだとかが持っている様な、そう、47だか74だか、そんな名前の鉄砲だ。オレンジ色のプラスチック製のマガジンが印象的で、一度見れば忘れられない形状。
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