序章

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 初めは見る度に怯えていたが、毎日見ているうちにもう慣れた。彼らはその指を引き金にかけている訳でもないし、安全装置――アメリカの射撃場で一度友人にならって撃たせてもらった時に教えて貰った、弾が発射可能になるための装置が掛ったままになっている。自分はたいして脅威とされていないことであり、何をしても殺しはしないという意思表示の表れなのだろう。 「博士、時間です」 「付いてきて下さい」  部屋に入ってきた男は二人、部屋の外にも二人。例にもれず全員武装していた。控えめな武装ながら、その身のこなしには洗礼されたものが有る。素人目にも其れだけは分かった。  いつものように、ラボにつれて行かれ、パソコンと実験室の往復を繰り返すのだろう。  そう思いながら男達に付いて行くと、今日に限っては別の場所だった。錆び付いた金属むき出しの扉を開けた先に広がる光景は、切り立った岩肌が目立つ山岳地帯の谷間だった。ブラウスと白衣だけでは肌寒い気温と乾燥した大気。足元に残雪が残る常緑針葉樹が目立つ山岳地帯。空は澄んでいて雲は薄い。 「ここは……」 「乗ってください」  思わず声に出していた疑問。それに答える声はなく、やたらに丁寧な口調の男はそれに反して有無を言わさぬ威圧感で、ついついその言葉に屈してしまう。アイドリングの状態で停車していたシルバーの日本車の車内は、暖房がきいていて暖かかった。少しオイル臭く感じる車内の匂いも、それ程気にならない。シートは柔らかく、ついつい睡魔を誘う。周りに武装した男さえいなければ、恐らく無防備に寝ていただろう。  直ぐに車は発進した。地肌がむき出しの道とは呼びがたい道を、荷台に機関銃を据え付けた護衛のピックアップトラックに前後を挟まれながらのドライブは、肉体的には快適だったが精神的に苦痛だった。
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