序章

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 恐らくスズキの車だろう。悪路の割に快適な乗り心地は、流石完璧主義のメイドインジャパンである。バイオエンジンはガソリンエンジンよりも騒音が少ないせいもあり、道中は静かなものだ。 「あの、何処へむかってるんですか?」  暫くは山の景色を眺めていたが、どうしてもそれは気になった。  今まで研究施設に拘束されて研究を強要されていたと思えば、今度はどこかへ移動する。先ほどまで居た施設の前は、三十日間別の施設で同じ様な研究を強いられていた。  もう研究はしなくていいのだろうか。自分は解放されるのだろうか。淡い期待が胸を照らす。二ヶ月ぶりに見たお天道様は、どうやら自分に希望を与えてくれているようだ。  だが、後部座席の隣に座る男は、無言のままずっと正面を見つめたまま、答えてくれはしなかった。
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