第一章

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 チャージングハンドルを引いてボルトを後退させ、セミオートに設定したアンビセレクターにより安全装置が解除されたトリガーを絞る。  キンッと甲高い音と共に、撃針が空を突いた。 「空撃ちは銃の寿命を短くする。大事に扱わないと銃は期待に答えてくれない」  口うるさい女だ。  目の前の女を鼻で笑って組み立てたライフルの弾倉挿入口に、女が弾を込めた樹脂製弾倉を挿入する。 「デルタ、それは私のマガジン」 「どれも同じでしょ、ミーシャ」  女は表情すら変えずに小さくため息をつき、また弾倉に弾を込める作業にいそしむ。  ミーシャと呼ばれた黒髪碧眼の女は、スラブ系の白人と日本人との混血児だ。正確には篠崎桜花が彼女の国籍に登録される本名だが、愛称がミーシャと言う。色白だが骨格は黄色人種に近い。黒い下着が透けて見える白の袖無ランニングシャツ姿で、細身ながら比較的筋肉質な四肢が美しい。無表情で寡黙な性格の、見ている分には綺麗な女だ。  デルタはついつい、そんな彼女に悪戯をしたくなる。親しくしているうちに分かる事だが、彼女は無表情の中にも激しい感情の変化が感じられるのだ。今はデルタのいやがらせ――自身が弾を込めた弾倉を勝手に使われている事に対して、それ程苛立っていない様子。寧ろ機嫌がよさそうだ。  何かあったのだろう。  この女は、些細な事で機嫌が変わるのだ。
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